富山地方鉄道「引退車両最後の競演」イベント その1

富山地方鉄道(通称富山地鉄)は、富山県の県庁所在地富山市を起点として、93.2kmの鉄道線と7.5kmの軌道線を有する地方鉄道としては比較的規模の大きい鉄道です。
沿線には立山・黒部アルペンルート、宇奈月温泉・黒部峡谷という二大観光地を擁し、古くから観光特急を運転するなど、かつては長野県の長野電鉄と並び「地方鉄道の雄」と称された存在です。

富山地方鉄道では沿線観光に力を入れており、1955(昭和30)年の14770形(後に14790形に形式変更)を皮切りに、二扉転換クロスシートを装備した車両を多数増備してきました。
これらの車両は14770形と同年にデビューした名古屋鉄道5000系をベースとして日本車両製造が各地の地方鉄道に納入した「日車ロマンスカー」と呼ばれ、秩父鉄道、富士急行、長野電鉄、北陸鉄道などに同類の車両が存在していましたが、現在ではしかしながら、モータリゼーションの進展による鉄道での観光需要の減少、沿線人口の減少などにより、次第に代替されてゆき、富山地方鉄道以外の車両は全て廃車されてしまいました。
富山地方鉄道でも、京阪電鉄や西武鉄道、東急電鉄かにら代替車両の導入が進み、現在では10020形モハ10025号+モハ10026号、14720形モハ14722号+クハ172号の2編成4両を遺すのみとなっていましたが、いよいよ2019(令和元)年9月に10020形が、12月には14720形が廃車されることがきまりました。

そこで富山地方鉄道では、長年富山地鉄を支えてきたこれらの車両の引退にあたりイベントを企画し、その第一弾として「引退車両最後の競演」と題し、10020形と14720形両形式の引退イベントを9月15日に開催しました。

8月末に富山地方鉄道ウェブサイトで告知されると、わずか数日で定員100名が満員御礼となるという非常に競争率の高いイベントとなりましたが、幸運にも参加の機会を得ることができたので、久々に富山地方鉄道を訪問してきました。

イベント当日は電鉄富山駅にて7時30分より受付開始とのことだったので、少し早めに…と思い7時に電鉄富山駅に到着しましたが、すでに改札前には多数の鉄道ファンが待機しており、若干出遅れてしまい、参加される皆さんの熱の入りようが窺えました。

応募は往復はがきで。「イベント参加のご案内」が返信で送られてきました。

改札口前には、本日のイベントにあわせてポスターが掲示されていました。
銀河をバックに10025+10026号、14722+172号のサイドビューがデザインされたもの。

受付開始は7時30分の予定でしたが、かなりの人数が事前に改札前に集合していたので、10分ほど早めに受付開始。こちらで参加費を支払い、参加証と本日限定の一日フリー乗車券を受け取ります。

本日の主役である10020形は1番線に到着。宇奈月方に14760形と同型のクハ175号を増結した3両編成です。

引退記念のヘッドマークが掲示されていました。

しばらくすると2番線には中間にダブルデッカー車を連結した10033編成、その奥に10030形、さらに4番線にはもう一編成の日車ロマンスカーである14722編成が入線し、電鉄富山駅全ての番線が埋まりました。

参加証と一日フリー乗車券。
参加証は表に10025編成と14722編成の写真が、裏面には本日の行路表が印刷されていました。
一日フリー乗車券は、両編成をあしらったD型硬券で、このイベント限定で用意されたものです。

受付時点では日付印が押印されていない状態でした。

今回のイベントは定員100名で募集のところ、あまりに多くの応募があったため、急遽定員を120名に拡大したそうです。

ただし、受付を済ませた後は列車に乗らず、走行する写真を撮りに出かける方もいらっしゃったので、車内はクハ175号を増結していたこともあって、二人がけシートに一人ずつくらいの、ゆったりとした感じでした。

列車は8時過ぎに電鉄富山駅を出発。まずは宇奈月温泉駅を目指して走り始めました。途中、中滑川駅と新魚津駅では撮影タイムが10分ほど設けられていました。

中滑川に向かう途中、スイッチバック駅の上市駅で停車中、先に電鉄富山を7時41分の普通上市行きとして先行していた14722編成が、電鉄富山へ向けて折り返してゆきました。

中滑川駅に到着すると、10分ほどの停車時間を利用しての撮影タイムがスタートしました。
今回は運転室に多数のヘッドマークを積んできたので、どんどんヘッドマークが交換され、そのたびに駅構内にはシャッター音が響き渡りました。

懐かしいデザインの「特急 宇奈月温泉」。

こちらも貴重な「特急 電鉄桜井」。電鉄桜井駅は西三日市駅として開業し、1951(昭和26)年に電鉄桜井に改称、そして1989(平成元)年には現在の電鉄黒部駅に改称されています。

幼少の頃、私が初めて富山地方鉄道に乗ったときは電鉄桜井駅だったので、とても懐かしく感じされました。

続いて「急行 電鉄富山⇔電鉄桜井」。

中滑川駅に停車しているので、ということで「普通 電鉄富山⇔中滑川」。

「快急 電鉄富山⇔立山」。

「試運転」。時代を感じさせるデザインです。

このようにわずか10分の間に目まぐるしくヘッドマークがかけ替えられるので、休む間がありません(笑)

そして中滑川を出発すると次の停車駅は新魚津。こちらでも中滑川同様に大ヘッドマーク撮影会の開催です。
このあとも、停車する駅ごとに多種多様なヘッドマークが掲げられ、途中からは行先方向幕も掲示するヘッドマークに合わせたものになるなど、富山地方鉄道スタッフの皆さんも「次何にする?」などと談笑しながらノリノリでヘッドマークを交換していました。

「特急 うなづき号」の大型ヘッドマークです。

こちらは宇奈月温泉と立山を直接結ぶ「特急 アルペン号」。

「特急 宇奈月温泉」。黒部川に架かる山彦橋がモチーフです。

「特急 電鉄富山」。立山連峰をバックに富山城が描かれています。

こんな古い「臨時」の板も掲示され、参加者がどっと沸きました。

新魚津を出発すると、最初の休憩ポイントである宇奈月温泉駅まで時間があるため、出発時には日付印が押印されていなかったフリー乗車券への押印と、希望者には入鋏が行われました。

間接照明が特急車両としての矜持。
しかし網棚は文字通り金網で、時代を感じさせます。

次第に勾配がきつくなり、列車は宇奈月温泉へ向けて進んでゆきます。

9時46分、宇奈月温泉駅に到着。
20分弱の休憩時間があったので、撮影をする人、トイレ休憩をする人、ホーム端の足湯に浸かる人など、皆思い思いに宇奈月でのひとときを過ごします。

当然のことながら宇奈月温泉駅でもヘッドマーク大会は続いているので一枚。
北陸新幹線の開通に伴い電鉄黒部と宇奈月温泉を速達で結ぶ列車として設定された「エリア特急 くろべ」。

富山方は14760形と同型で引き続き活躍を続けるクハ175号。
やはり当月で引退する10020形に比べると少し人気がなく寂しい感じですが、記念に一枚撮影しました。

宇奈月温泉駅停車中の車内。シートカバーのついた古めかしい転換クロスシートが並んでいます。参加者は皆車外へ出ているので、車内はとてももの静かでした。

宇奈月温泉駅に隣接する黒部峡谷鉄道の宇奈月駅構内では、電気機関車が入れ替え作業を行っていました。今日はこのまま滞在20分ほどで折り返してしまいますが、いずれまたのんびりトロッコ列車にも乗ってみたいものです。

そして10時過ぎに、10025編成は宇奈月温泉を出発し、次の目的地、立山へと向かいます。

(続く)