富山地方鉄道の素敵な駅舎を巡っているわけですが。
今回はちょっと毛色が違いますね。決して一般的に言うところの「素敵」ではないのです。個人的には、むしろこのシリーズで紹介するどの駅舎よりも萌えるんですが。
まあ、その外観です。
電鉄魚津駅。
はじめてこの駅を見たのは小学校3~4年の頃でしょうか。
いつもは鎌倉から母方の実家である金沢へ帰省する時には、こだまにのって米原からしらさぎ、加越、くずりゅうといった北陸本線の特急、急行に乗っていたのですが、あるとき上野から白山に乗ったことがありました。
特急白山の車窓に地鉄の線路が合流し、高架線になったところで電鉄魚津駅を見かけました。そのときにすごくワクワクしたのですよね。
「ああ、富山にも立派な高架駅があるんだ!」と。
実際のところ富山県内の高架駅というと、新幹線が開通するまでの間はこの駅だけなのです。
都会的なスタイルが凄く印象に残っていたのですが、それから時を経ること四半世紀ほど。近代的な「カッコイイ」高架駅は…。
ステーションデパートを併設する高層ビル駅舎。
しかし入り口から中へと入ると。
ちょっと不穏な空気。
「3F 電車のりば」は良いのだが、デパートはどうした?
さらに階段をのぼる。
「本日閉店しました」
いや、「本日」っていうか毎日閉店してるだろ。
そう、ステーションデパートはとうの昔に閉店になり、後を埋めるテナントもなし。立派な鉄筋コンクリートの駅ビルは、その大半が使われぬまま放置された状態なのです。
更に階段をのぼってゆくと三階の駅フロアに到達します。ふと右上を眺めると。
怖い…。
そして駅待合室。
分かりにくいので少し明度を上げています。実際にはもうちょっと薄暗いです。
右手には窓口がありますが、既に使われておらず、カウンターの前にはベンチが置かれています。
平日の日中は駅係員が配置されていますが、休日は無人です。時間によっては三階建ての大型ビルにただ一人ぽつんと佇むことになります。
人気のない改札口…。なにかこう、レッドアロー号が都落ちの悲哀を感じさせます。
煤けたホームの向こう側を、華やかな寝台特急が全速力で駆け抜けてゆきます。
鉄骨の柱は海に近いからか錆が浮き、壁面のタイルも半分くらい剥離。
鉄筋には似つかわしくない木造のベンチが所在無げにぽつんと佇んでいます。ホームの端には何故かこの木製ベンチよりもはるかに新しいはずの樹脂製のベンチが、埃を被って積み上げられています。
…とまあ、こんな風に、子供のころに近代的な雰囲気を感じてワクワクした空間は、もはや廃墟寸前という状況になってしまっているのでした。
それでも高架橋と一体構造で鉄道駅が存在するということによって、何とか解体も免れ、廃墟ではなく現役の建造物として機能しているのであります。
個人的には、子供の頃読んだ本で超高密度都市として紹介され、未来都市のような印象を持っていたのに実は既に廃墟になっていたという端島と同じような感覚を覚え、この電鉄魚津駅がどうしようもなく愛おしいのです。
寂れ方としては他の木造駅舎ともさほどの差はないのでしょうが、鉄筋コンクリート建築であるがゆえに感じる切なさ。
やっぱり私は鉄とコンクリートが好きなのだなあ、と改めて思ったりするのでありました。
次回からはまた、ちゃんと素敵な駅舎の数々をご紹介しますー。