肘折温泉は、山形県大蔵村にある温泉街です。
街全体が「肘折カルデラ」と呼ばれるカルデラ内に位置しており、開湯1,200年を数える歴史ある温泉地です。
肘折へのアクセスは、国道47号から分かれる国道458号を南下し、肘折トンネルを過ぎたところから県道57号へ入るルートがメインルートとなります。
ところが2012年4月10日と5月13日に、肘折地区の北端、県道がヘアピンカーブを描くあたり一帯で発生した地すべりにより、県道57号は通行止めとなってしまいました。
Googleマップに崩落地の航空写真がアップされていましたので貼っておきます。
迂回路として急遽国道458号と銅山川を隔てた西側で並行する県道331号から57号を経由するルートが整備されましたが、もともと冬季閉鎖の道で幅員も狭く、片側交互通行の箇所もあるなど非常に不便を強いられることになりました。
肘折は全国のアメダス観測地点で二番目の積雪深を記録する地区でもあり、万が一迂回路に雪崩等の災害が発生すると地区全体が孤立する恐れもあるため、崩落地を避けた復旧ルートの検討が進められた結果、崩落した現道の高低差をS字カーブを描く桟道橋で解消することが決定され、8月中旬に着工しました。
本格的な豪雪期が訪れる前の開通を目指して10月末からは三交代制の24時間体制で工事が進められ、当初2012年12月26日開通予定とされましたが、大雪のため一旦予定が2013年1月4日に延期。
当初の開通予定日2012年12月26日に、名称は「肘折希望橋(ひじおりのぞみばし)」と一般公募によって決定されました。
開通日延期後は天候が回復したため工事のペースが上がったことから、2012年12月31日大晦日の16時という滑り込みのタイミングで年内開通が実現しました。これに伴い県道311号の迂回ルートは同日18時から冬季閉鎖されています。
私は開通1時間後の大晦日17時頃に雪の降りしきるなか初渡りをしましたが、日没後で状況がよくわからなかったので、翌日天候が安定したところで徒歩で再訪し、見学をしてきました。
まずは下から全体を。実際にはS字と6の字を組み合わせたような複雑な形状なのですが、うまく形容できません。
下からのアングル部も全貌はつかみにくいかと思います。
林立する鉄骨柱が雪山に築かれた要塞のようにも見えます。
肘折側の取り付け部分へ。幅員が狭いため片側交互通行となっており、係員が常駐して整理にあたっています。
この橋は三箇所で立体交差しているのですが、最初の交差部を下から。H鋼で組まれた桁の上に床版として鋼板が敷かれています。複雑にカーブを描く線形のため構造が少々複雑になっています。
二箇所目の交差部。この地点はまだ既存道活用部分です。
激しい積雪にも耐える頑強な鉄柱群。
最後の交差部。この交差地点から直進方向が崩落しました。
本来の県道はこのまま上り勾配で直進してヘアピンカーブで手前方向へ戻り、上に写っている橋台の袂へ続いていました。
新設路では、ここで左カーブして上り勾配の桟道となります。
橋台を。この高さを詰めるために、複雑なカーブを描く立体的な橋になったのです。
最初のカーブ部分。ここから桟道部分が始まります。
かなりの勾配で上っています。
振り返って。このアングルから観るとループ橋っぽく見えます。
桟道上はある程度の幅員があるので、雪さえなければ普通車ならすれ違いもできそう。
二番目のカーブから下方向を。
運転するのが怖くなる急勾配カーブ。
三番目のカーブ手前から最初のカーブを見下ろして。
三番目のカーブが終わると桟道部分が終了し、既存道に復帰します。かつての道は矢印の赤い案内看板の向こう側に続いていたのですが、現在は地盤ごとごっそり失われてしまっています。
この橋が開通する前は、新庄と温泉街を結ぶ路線バスは迂回路を通行せず、肘折トンネル出口付近で折り返し運転を行っていました。
そのため、公共交通機関で移動する場合は、細く長い架設階段での往来を余儀なくされていました。
新庄側から桟道を。S字に屈曲している様がよくわかります。
本格的な復旧はこれからになるのでしょうが、地滑りから半年あまり、交通難から客足が遠のきつつあり、また日常生活にも支障の出ていた肘折温泉街にとっては、文字通り希望の橋となることを願って止みません。
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