端島炭鉱跡
かつてその島は、経済の成長を支える重要な役割を担っていた。昼も夜もなく「黒いダイヤ」の採掘が続き、コンクリート構造物が密林のように林立するその様を、人は「端島炭鉱跡」と形容した。しかし産業構造の変化と技術革新が、この島を過去のものへと追いやってしまった。
僅かな土地に沢山の人々が暮らし、活気に溢れていたこの島は今、波の音と鳥の声だけが響き孤独と静寂に包まれている。そして「端島炭鉱跡」と呼ばれたこの島も、いつのまにか緑の息吹に確実に侵食されつつある。
そんな島に私が魅せられたのは、小学生の頃、学校の図書館で目にした一冊の本がきっかけだった。世界一の人口密度を誇る島。不夜城のように真夜中でも沖合いに明かりが煌く島。その独特のシルエットから「軍艦島」と称されていること…。当時少年だった私は、長崎の洋上にまるで未来都市のような高層建築物が林立する島が存在する事に、少なからず興奮を覚えたのを記憶している。
しかしその本はかなり以前に刊行されたもので、私がそれを目にした時には既に炭鉱は閉鎖され、島からは人の温もりは失われていた。想像していた未来的な世界が、既に廃墟と化してしまっていたという現実は、そのことを知った当時の私の胸に深く刻み込まれた。
その時から、私は一度で良いから端島をこの身体で感じたい、高密度産業都市として一時代を築いた街の名残をこの目に焼き付けたい…、そう思い続けていた。そしてそんな衝動を抑える事ができず、私は海を渡りこの島を訪れた。
ここでは「文明」の代償として置き去りにされた島の姿を、記してゆきたい。私たちの暮らしの礎が、この島にあることを忘れないために。
ご注意
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