撮影日:2022(令和4)年3月7日
静岡県浜松市中区大工町で長年親しまれてきたものの、施設老朽化によって2022(令和4)年2月に廃業した銭湯「巴湯」で、かつて浴場に描かれたもののその後の改装で防水壁に覆われてしまった壁画が解体工事を機に姿を見せた、とのニュースが入ってきました。
そこに描かれていたのは、熱海市の温泉街や初島を高台から描いた風景画がでした。このニュースを見掛けたおり、その街並みに火の見櫓が描かれているのに気付きました。
解体に着手するまでの間、わずかな期間ながら一般公開をして下さるとのことでしたので、火の見櫓が描かれるという非常に貴重な銭湯壁画を鑑賞してきました。
巴湯さんは創業75年の歴史を持つ銭湯でしたが、施設老朽化と時代の波に抗えず、2022年2月26日で閉店されました。以前より経営者ご家族の間では浴場の壁に壁画が隠れていることは分かっていたものの、塞がれてしまっていたため今回廃業に至るまでは封印されたままになってしまっていたとのことでした。
解体にあたり壁画を「発掘」しようということになりましたが、一筋縄では行かず、まず石膏ボードを取り外すと防水シートが現れ、「この下に壁画が」と思いはがしたものの、そみに現れたのは水色の木板のみ。「はげ落ちてしまったのか」と諦めかけいたところ、銭湯研究家の方が根気よく調べた末に、木板の更に下にあった壁画がかなり良好な状態で発見されたとのことでした。
油彩の壁画は男湯と女湯に分割されており、そのサイズは縦1.8メートル、横6.6メートル* でした。
* 出典:静岡新聞「浜松の⽼舗銭湯から壁画 30年ぶり「昭和の熱海」出現 解体中の「巴湯」 9日まで公開」 2022年3月9日付記事より
男湯側には、初島と春日町あたりの街並みが描かれています。
集落の右手に火の見櫓が描かれているのが見えます。
女湯側は、渚町から魚見崎にかけて、右手奥には湯けむりが描かれています。
この壁画を描いた天笠義一氏は横浜出身の洋画家で、児童文学の長崎源之助作品の挿画なども手掛けています。
当時天笠氏が巴湯に一時寄宿しており、そのお礼として描かれたとのことです。
女湯側の右下には、「1954 5 may amagasa」とサインが記されており、1954(昭和29)年5月の作品であることがわかります。
火の見櫓は街中にひと際高くそびえ立っており、浜の漁船との対比が海べりの街であることを強く感じさせます。
更に火の見櫓部分を拡大して。鉄骨ではなく木造の火の見櫓であることがわかります。この時期は既に鉄骨造が主流となっていましたが、海べりでは塩害のため木造を採用していたのでしょうか。そんな昔日の光景に思いを馳せてみるのも楽しいものです。
今回のレポートにあたり、最後の機会に公開見学の場を設定下さった巴湯 関係者の皆さまには、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。