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Canon T80 

 キヤノンTシリーズを愛好する私が、シリーズ5機種中4機種までも入手しておきながら、気になりつつも最後まで購入を躊躇したのがこのT80だ。

 最早人々の記憶から忘れ去られているかもしれないが、このカメラはキヤノン初のAF一眼レフカメラだ。それが証拠に、ACレンズと名づけられたAF連動信号接点の付いたFDマウントのこのレンズには、向かって右側に大きな出っ張りが存在している。ここに、現在に至るまでキヤノンAFの特徴となっているレンズ内モーターが納められているのだ。

 本当なら、画期的なAF一眼レフとして燦然とカメラ史上にその名を残す筈だったこのカメラの不幸は、発売数ヶ月前にミノルタからα-7000が登場した事から始まった。当時の技術では、レンズ内モーターではどうしても鏡胴にモーターを納め切れずに、このACレンズの様に突起が生じてしまう。それをα-7000はボティ内モーターで駆動する事で解決し、更にAFセンサーに位相差検出方式を採用する事でAF精度も当時の一般的な水準からは比較にならないほど向上させた。

 そんなカメラという機械そのものの歴史を揺るがす様なα-7000に太刀打ちできる筈もなく、T80はひっそりとカメラ史の中に埋没してしまったのだ。それゆえ、AF精度も低く実用度が限りなくゼロに近いこのカメラの購入には、どうしても二の足を踏んでしまっていたのだ。

 しかしながら、他のTシリーズのカメラを全て保有しているとなると、やはり意地で全部所有したい、という色気も出てくる。それに、AF性能の低さばかりが語られるのであまり評価されてはいないものの、現在のマルチモードプログラムAEの先駆けとなったピクチャーセレクト式のプログラムAEは、ユニークな機能であるし、ファインダーもクロススプリットで合焦もし易い。FDレンズを装着すればフォーカスエイドのマルチプログラム一眼として利用する事も可能だ…、と自分に言い聞かせて、ようやく購入に漕ぎ着けた次第。

 実際に触ってみると、ぎこちないAFに何故だかとても愛着を感じてしまった。良いところもあるのに不器用であったが故に表舞台に立つことができなかった悲劇のカメラ。少なくとも私だけは大切にしてやろうと考えている。

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