火の見櫓図鑑

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地形的条件

 火の見櫓の立地を選定するポイントは、地形的な条件と周辺環境とに大別される。火の見櫓の主たる目的は災害の告知と消火・救援活動への召集であり、その対象はまず立地する集落内(消火活動や避難喚起)、そして次に隣接地区(災害発生の伝達や救援要請)の順となる。

 集落内での立地については、後述の通り集落の主要道路沿いや社寺、公民館、学校など地域コミュニティの中心的な役割を持つ場所が選定されるが、立地選定の条件はそれだけには留まらない。火災消火活動や災害救助活動が集落内の自助で完結できることは稀であり救援の要請が必要なこと、また土砂災害や水害などの大規模災害において事前に他の地域への避難を促すことなどを意図し、複合的条件として「周辺地域へいかにして緊急事態を伝達するか」も考慮されたものとなるのである。

火の見櫓研究についてのバイブルともいえる「火の見櫓 - 地域を見つめる安全遺産」(火の見櫓からまちづくりを考える会編 鹿島出版会 2010年)においては、静岡県大井川流域の数地区における集落内での火の見櫓立地が周辺への「半鐘の音の伝播」を模索して変遷した経緯を読み解くとともに、著者の一人である鳥越けい子氏は、こうした半鐘の音とそこに住む人々との関係性を「半鐘のサウンドスケープ」と定義している。

このような視点で立体的に火の見櫓の位置関係を俯瞰してみると、そこに火の見櫓が存在する必然性というものを見出すことができるのではないだろうか。

火の見櫓の立地を俯瞰する

福島県会津美里町周辺

会津盆地の南端にあたる地域。田圃の中に点在する集落それぞれに櫓が立っており、適度な間隔を保っている。

奥へ続く谷は会津西街道として大内宿を経由して今市へいたる道筋で、関山宿に立つ櫓の半鐘の音は、中間の櫓を介して画像左手の本郷の中心街へと伝わってゆく。

愛知県弥富市・蟹江町周辺

濃尾平野の南部に位置し、ほぼ平坦な地形に火の見櫓が比較的高い密度で建てられている。

画像の範囲の大半は海抜ゼロメートル地帯であり、海水面より低い立地であることから伊勢湾台風をはじめとした水害が多く発生しているため、よくみると川に沿って建造されている櫓が多いことが分かる。

長野県下諏訪町周辺

下諏訪の町は、旧中山道の通る砥川(画像左上から右下)や、諏訪大社下社秋宮の裏手(画像中央右側)を流れる承知川によって形成された扇状地・沖積低地の上に発達している。

このため、火の見櫓も砥川沿いの谷から諏訪大社下社秋宮を中心として承知川を控える湖畔の平野部、さらには湖岸にかけて点在している。

青森県黒石市温湯地区周辺

黒石市中心部から温湯温泉へ向かう旧道(画像左下から右上)、さらに奥の大川原集落へ至る谷筋に櫓が点在し、大川原集落から黒石市街まで、半鐘の音伝いに災害を知らせることができる位置関係を形成している。

旧道に沿って適度な間隔で櫓が設けられていることがよく分かる。

静岡県静岡市葵区井川地区周辺

大井川の上流部、井川地区は中部電力井川ダムの建設に伴い旧来の集落が水没移転し、そこに新たに櫓が建造された。

湾曲して広がるダム湖沿いに点在する集落間で、なるべく隣接集落に音が伝わりやすいように死角の少ない場所を選んで建てられていることが分かる。